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コレクタブルビーズの世界では、伝世(heirloom)という重要なキーワードが頻繁に出てきます。

伝世玉とは、先祖代々、体系的に受け継がれ、相続されてきた古いビーズや首飾を示します。

東南アジアには、数多くの少数民族がいますが、全ての民族が行っているわけではなく、伝世せずに死者と共に埋葬する文化もあります。又、埋葬する習慣から伝世へと切り替えた民族もいます。

伝世を行う事で知られる主な少数民族は、フィリピンのカリンガ族、ボントック族、イフガオ族、ガッダン族、イスネグ族、この5つの少数民族はルゾン島北部に住んでいます。もうひとつはミンダナオ島のティボリ族。

台湾には、パイワン族、ピューマ族、アタヤル族。

マレーシアとインドネシアのボルネオ島には、ダヤク系、オラン・ウル族のカヤン族、ケラビット族、ビダユ族、そしてイバン族などがいます。又、インドネシアの島々、ティーモール島、カロリン諸島など広い範囲で伝世玉が見つかります。大陸へ行くとビルマのチン族、ナガ族、タイのアカ族etc、中国には雲南省を始め多くの少数民族が居ます。(遠く離れた東アジアでは、日本のアイヌ族が伝世の風習を持ちます。)

特に、フィリピン、ボルネオ、台湾の島々には、憶測の範囲を出ない、年代やオリジンが不明な玉があり、コレクタブルビーズの世界では重要な位置づけがされています。下の画像は一例です。好奇心がそそられる玉は他にもたくさん存在します。

①ボルネオ。16世紀の中国製シェブロン。ヴェネチアの初期7層シェブロンのイミテーション。フィリピン、台湾のパイワン族の間でも伝世されています。カリンガ族の間ではドゥマットと呼ばれ伝統的に子豚一匹と等価です。その左右はオランウル族が価値を置く詳細不明のアイビーズ。

②ボルネオ。the History of Beadsの巻末年表の919に当たる玉の色違い。カリンガ族がバヤンガオと呼ぶ極細の筋が無数に入った玉。オリジン等詳細不明です。

③ボルネオ。ドッグボーン型のエメラルドグリーンの玉。黄色、白、赤のストライプが施されています。年代オリジン等詳細不明。

④ボルネオ。ビダユ族がマニック・ビンチュ・ブヒスと呼ぶ、透明な青い玉。清朝期に中国、博山で作られた「パドレ」に他なりません。鉛は含まれませんが、多くの点から中国製と判明しています。アラスカ・北米西岸の毛皮交易でも使用され、オパックのスカイブルーの玉は先住民に最も人気がありました。

⑤ボルネオ。カヤン族がケレム・ベラと呼ぶ、19C、ヴェネチア産の筋玉。ボルネオでは比較的多く見つかります。

⑥ボルネオ。カヤン族が価値を置く様々な希少玉。パイワン族の首飾りにも一部の玉が見受けられます。現在ジャワ島で多くのボルネオ伝世玉のレプリカが作られています。中には精巧な物もあります。これらの画像の玉はレプリカが作られるずっと前の1950年代に収集されたオリジナルです。

⑦ボルネオ。オーク色とイエローの装飾が施されたルクットセカラ。カヤン族が最高位の価値を置く「ビーズの王様」と言われており、この玉を廻り戦争まで起きたそうです。ややこしい事に、この玉には同種のタイプが複数存在するらしく、年代も様々な説があります。この玉が本家なのかは情報不足の為、現段階では不明です。圧倒的に数が少なく、マレーシアのサラワク州とインドネシア側のボルネオ合わせても一握りしか存在しないそうで、現地価格で$4000すると言われています。カヤン族の最高位の玉は、性別があり、熟達した目を持つカヤン族の長老や年配の女性しか見分けられないとの事です。謎を解くには彼らに見てもらうしかなさそうです。この玉の次に価値がある玉は、ルクット・コングバと呼ばれるローマン~イスラム初期のチェッカーモザイクビーズ。この時代の古代玉は通常発掘品として見つかります。伝世されてきた事は驚愕に値します。ボルネオのビーズに関して詳しくはH Munan筆「Beads of Borneo」をご覧下さい。

⑧台湾。パイワン族。非常に希少価値のある玉。パイワン族のビーズは、数々の書籍で紹介されていますが、はっきりとした事は分かっていません。デ・ボークレールはオランダ産の可能性を示唆しましたが、オランダが類似の玉を作った事実は知られていない事から、根拠に乏しくオランダを始めヨーロッパ産は考えにくいです。亡Peter F JR氏によると、中国の影響が強かったジャワ島中東部のマジャパヒト王国の都 トロウラン(1292~1520)から、パイワン族が伝世する掻き揚げ文様の玉が発掘されたとの事です。鉛を含むコンテンツと流通路から中国産の可能性があります。一部では和玉説もあり。

好きな物を各々の自由に伝世する我々と違い、東南アジアの伝世玉は、変化に富んだ規定と習慣に律されており、民族ごとに相続様式は大幅に異なります。

伝世玉は、持ち主の民族、富、社会的な地位、宗教、性別、出生順位、配偶者の有無等を知らせる機能があります。とりわけ、自他を区別する大切な役割がある為、各民族ごとに価値を置く玉や装飾の仕方は異なります。これは伝世玉が持つ重要な特徴で、民族固有のアイデンティティを表す上で欠かせない役割があります。

生活に貧窮した時など、必要に応じバーターされる事もありますが、基本的には、相続した人は、自分の物として「所有」するのではなく、家族や、自分が所属する民族の分まで、受け継ぐ役割を担います。

相続が成立する時期は、婚約時の事もあれば、持ち主が亡くなった時等、各民族で仕来りは異なります。

誰が相続するかというのも各民族では異なる風習があります。長女のみ、長男のみ、息子のみ、娘のみ、子に公平に分配される、又はそれらの混合といったように、ルールは様々です。ビルマ、チン族のプンテックは、父親の物は、息子へ、母親の物は娘へ相続されます。又、死者を弔う晩餐会に多く金銭を支援した、親族にいくつか渡されるといった例もあります。

又、伝世の仕方もそれぞれ異なり、その社会で決められます。受け継がれてきたそのままの状態で渡される事もあれば、複数の子に分配を行う風習のある民族では、紐を解き、玉が分配されます。(カリンガ・パイワン族は始めは後者であったものの、いつの時代からか前者に切り替えたと思われます。)

又、例えば新たに入手した玉を連に足す事を認める、もしくは認めないでそのままの状態で相続する事をよしとする仕来りもあります。